ここで間髪を入れずに
「お客様びっくりしないでください、今、お客様が見ているドキュメントのデータは、ハイ」
と指を差しながら
「こちらのNTサーバーのハードディスクにデータが入っているのです。」
と続けます。
「おっと、説明が遅れましたが、いま、お客さまが見ている60インチのディスプレーはこちらのウィンドウズ98のマシンに繋がっています。メモリは、32メガバイト、CPUは233メガヘルツのMMXペンティアムです。で、LANは、このとおり、イーサネットの出現以来のスピードのままの10ベースTです。」
と言いながら、安物のハブを持ち上げます。
「本日、わざわざ、このように安くて、遅いLANを持ってきたのは、ちゃんと理由があるんです。そう、あなたのご想像の通り、(1秒くらい間をおいて)我が社にお金がないからです。」
と一瞬胸を張り、続いて、ゆっくり、うつむいて、マイクを持った左手で暫し額を掻き、気を取り直したように、すっと顔をあげ、
―――「も、事実ですが、」
このあたりで、観客はくすくす笑い出します(しめた!)。
「このように遅いLANでもこの速度、」
既にこの時は、モニター上は、パタパタページが捲られています。
「特にこの応答速度を実現しているということをいいたいのです。しかも、このNTサーバー、普通のIDEのハードディスクがついたごく標準的なパソコンにウィンドウズNT4.0をインストールしただけのサーバーマシンです。」
ここまで、私は、前列にいるあなたに話し掛けてきました。ここで、途中から観客になった後ろの人たちのほうに眼をやって、続けます。一段と声を大きくして
「いいですかお客さん、この全てのドキュメントのデータは、このNTTデータの中にある、じゃない、NTTサーバー、ん?もとい、NTサーバーの中にあるんです、そして、この遅い10ベースTの中をチョロチョロ通ってこの98マシンに届き、」
既に、ディスプレイ上には、郵政省から借りてきた500ページ近くの答申書が表示されています。「このとおりパラパラとページが捲れるのです。もうさっきから30ページくらい、いや40ページくらいページ捲りしてますが、途中で遅くなったりしないですよ。」
この「よね」といった瞬間、私はあの川口さんになりきっています。
「で、こういうイベントでは、コンピュータに詳しい人がいて、98マシンの中にデータがキャッシングされているんじゃないの?って疑うひとがいるんですよね。」
ここで、あなたは、また、縦にしかもさっきより速く首を振ってしまうのです。迂闊です。あなたは、サクラとして最適な人間です。
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